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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)967号 判決 1949年2月15日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人上野開治の上告趣意第一點について。

原判決の認定した本件被害物件は、元軍用アルコールであって、かりにこれはいわゆる隠匿物資であるために、私人の所持を禁ぜられているものであるとしても、それがために所論のごとく詐欺罪の目的となり得ないものではない。刑法における財物取罪の規定は人の財物に對する事実上の所持を保護せんとするものであって、これを所持するものが、法律上正當にこれを所持する權限を有するかどうかを問はず、たとい刑法上その所持を禁ぜられている場合でも現実にこれを所持している事実がある以上社會の法的秩序を維持する必要からして、物の所持という事実上の状態それ自體が獨立の法益として保護せられみだりに不正の手段によって、これを侵すことを許さぬとする趣意である。

しかして原判決の認定するところは、花田善七郎が現実に所持していた元軍用アルコールを、被告人が騙取したというのであるから、原判決がこれに對して、詐欺罪の成立を認めたのは正當である。

同第二點について。

第一審第一回公判調書によれば、第一審の判事が被害者との親族關係の有無について訊問したのに對し、被告人はありませんと答えていること明白であり、原審公判において、裁判長が證據調として被告人に對し、右第一審第一回公判調書の要旨を告げて意見の有無を問うたのに對し、被告人が何も意見はないと述べたことは之亦原審第一回公判調書によって明白なところである。從って、原審は所論親族關係の有無について審理を遂げその結果所論のごとき親族關係は存在しないと認めたものというべきである。

しかして右のごとき親族關係の存在は、單に、法律上刑の免除の理由たるに過ぎないのであるから、原審において、特に、被告人側から、その存在を主張した事実のない本件においては、判決においてその關係の存在しないことを明示しなかったからといって、これを違法ということはできない。(昭和二三年(れ)第九九二號同年一二月二七日大法廷判決參照)(その他の判決理由は省略する。)

以上のごとく本件上告は理由がないから、刑訴施行法第二條舊刑訴法第四四六條に從い主文のとおり判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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